「この切り抜きとあなたじゃ顔が違いすぎてこの髪型にはならないよ」

美容師をやっていると、
昔はお客さんが髪型の注文をする時に、雑誌の切り抜きを持ってくる方が一定数いました。
今だったら、スマホを見せて「この髪型でお願いします」みたいな感じです。

これは、美容師側からすれば、とてもありがたいです。
お客さんの「求めていること」が抽象的ではなく顕在化しているので、カウンセリングで根掘り葉掘り、探らなくても美容師側がお客さんが目指している雰囲気を理解できるからです。

あと、言葉ではなく画像で見ることによって、お客さんと美容師側の双方の長さやシルエットのイメージがガッチリ合致するので、成功確率(=お客さんの満足度)も一気に上がります。
まさに「百聞は一見にしかず」です。

雑誌の切り抜き(今だったらスマホで画像提示)の時に、
お客さんからかなりの確率で言われるのが、

「このモデルさんと私は顔は違うんですけどやってみたくて….」
「このタレントさんみたいには可愛くないんですけどこの髪型にしたくて…」

と遠慮がちに言われます。

お客さんは、美容師側に、
「このタレントとあなたじゃ顔が違いすぎてこの髪にはならないよ」
と心の中で思われるのがイヤだから、恥ずかしい思いをしないように保険としてこういう事を言ってるのかな?と思ってます。

私は…..その気持ち、すっっっごくわかります!

私もかつては美容院に髪を切りに行く時、そういう思いをしていたので…。

これは1997年、私がまだ代々木の美容学校生だった、17歳の時の話です。

当時はスマホもネットもない時代で、
今みたいに「ヘアスタイル」とネット検索すれば大量に髪型の画像が見つかる時代ではありませんでした。

そして、今の時代のように、みんながみんな、違くていい。みたいな時代じゃなくて、
「みんなと同じ」がイケてる時代でした。(少なくとも当時10代の私たち世代は)

みーんなおんなじコムロ系の音楽を聴き、女子は安室ちゃんを目指し、男子はキムタク目指してロン毛、みたいな。
現在、「90年代後半の若者」とネット検索すれば、若い子は恐ろしいくらい「みんな同じ格好、おんなじ髪型」をしていたのがわかると思います。

当時10代だった私も、例にはもれず、ロン毛(ロングヘアー)でした。
似合っている、似合っていないはともかく、周りがみーーんなロン毛だったからです。
(当時の渋谷は男はロン毛、女はアムラーが当たり前)

で、美容院で髪を切りに行くたびに、毎回、嫌〜な思いをするわけです。

それは、上記のような時代でしたからしょうがなく私も周りと同じ髪型にすべくキムタクの髪型の切り抜きを美容院に持って行って、「これにしてくれ」と言うわけですが、
私の担当美容師はいつも、そのキムタクの切り抜きを目の前の鏡に貼り付けて、それを見ながら髪を切るからです。

目の前の鏡に貼り付けるわけなので、切っている最中は、

私の後ろを通る美容院スタッフからも、他のお客さんからも、全部、キムタクの切り抜きが丸見え。

なんだか周りから「こいつこの顔でキムタク目指してんのかよ。プププ….」と心の中で笑われているような気がして、カットされている時間は恥ずかしくていつも読んでもいない雑誌に目を落として下を向いていました。

で、きわめつけは、カットはヘアスタイリストさんがしてくれるのですが、
シャンプー、ブローはアシスタントさんがしてくれる、というシステムの美容院だったので、

シャンプーが終わるとアシスタントが私をカットしてくれたスタイリストに、
「今からブローで乾かすので、どんな風に乾かしますか?」
と私の席から離れて他の客をカットしているそのスタイリストに聞くわけです。ブローしながら。

で、スタイリストは、遠くにいる私を乾かしてくれているアシスタントさんに、
「キムタク風で!」
と大きな声で言うわけです。

席は離れているので店の中にいるたくさんのお客さんやスタッフにも聞こえるような大きな声で…。

 

私はもう、それを聞いた周りの人たちにどう思われているのか、心の中で笑われているんじゃないか、と思うと恥ずかしくて恥ずかしくて、赤面を通り越して耳まで真っ赤になりました。
もう、寝たフリをするしかなかったです。美容院の時間が苦痛でしょうがなかった。1秒でも早く帰りたかったです。

そんな経験から、美容学校生だった私は「将来、美容師になったら絶対にこんなデリカシーの無い仕事をするまい」、と17歳ながら、心に決めました。

そして1997年から時は流れ…..
2011年に自分の美容院を開業した時には、
店の従業員マニュアルには以下の事をしっかりと盛り込みました。
私はあの時の気持ちを忘れていなかったからです。

 

  • 「切り抜きは他の人に絶対見えないように」
  • 「お客さんに恥をかかせないように配慮する」
  • 「店内で他の顧客に聞こえるような大きな声は控える」

 

と言う事です。
美容師として、というよりも、人としてデリカシーのある、心に配慮のある仕事をしたいと思っています。

美容院LUPIASでは、タレントやモデルの切り抜きや画像の提示を快く受け入れます。むしろ、いつでも歓迎しますし、提示してくれるとありがたいと思っています。
それは、私自身がとても嫌な思い出だったので、他の人にも同じ思いを絶対させたく無いからです。

 

そういえば….

この話を私の先輩にしたら、その先輩は他の美容院に行った時に
「広がりつつあるオデコ」と「ハゲ」をその先輩は気にしていたのですが、
毎回、美容院でカットの待ち時間にオールバックにクシで梳かして長時間待たせるのは広いオデコを他人に見られるのは恥ずかしいのでやめてほしい…と言っていました。

 

オデコを周りの人に見られるのが嫌で、前髪を自分で手でくしゃくしゃに目立たないように直すと、すぐにアシスタントが飛んできてまたクシで丁寧にまたオールバックにするので、苦痛でしょうがなかったと言っていました。

この先輩の担当美容師も、きっと顧客目線で考えることの出来ないデリカシーの無い人だったのでしょう。

「もし自分がお客さんだったら…」を常に考えられるような仕事が大切だと考えています。

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表参道の美容院「LUPIAS」を運営する、株式会社Mastermind代表取締役社長。 その他にもヘアケア商品販売の会社の社長も務める。 2社の会社を経営する傍ら、仕事は「現場主義」を徹底し、自らも美容師として日々サロンワークを精力的にこなしている。